東雲侑子は短編小説をあいしている

東雲侑子は短編小説をあいしている (ファミ通文庫)

東雲侑子は短編小説をあいしている (ファミ通文庫)

Web連載で途中まで公開されていた作品の完成稿。俺は森橋ビンゴ先生の(にわか)ファンなんで、連載中から追ってた。
何事にも無気力で、楽だから、という理由で図書委員になった三並英太と、同じく図書委員で読書好きな東雲侑子。東雲には実は本に関するとある秘密があり、それを英太が知ってしまい……といったところから、物語は始まっていく。
この作品の一番魅力的なところは、森橋ビンゴ先生の特徴でもある、どこか素っ気なく、それでいて緻密な描写によって描かれる、英太の気持ちの揺れ方だと思う。東雲の心理描写は直接的にはなく、すべて英太を通した視点で書かれていて、それが高校生らしい思いだったり悩みだったりを切なく表現してた。
幕間の短編「ロミエマリガナの開かれた世界」も、ただの演出で特に内容に意味はないのかなーと思いきや、物語が後半に差し掛かるにつれて存在の意味を強くしていった。綺麗に一冊を使った見事な仕掛けだったと思う。
あと、連載中はそうは思わなかったんだけれど、有美さんが良いキャラクターをしてて、物語を面白くしてた。最後にピタリとハマるオチは、英太の物語としてのこの作品を綺麗に締めていたと思う。
しかし、最後の一幕は出し惜しみしても良かったんじゃないかなと思う。2巻が出るかどうかはわからないところではあるけれど、全部書いてしまった分、この一冊だけで終わってしまった感が出てしまってる感じがする。もし2巻が出る前提ならば、最後の章のキーとなる部分だけは1巻のラスト手前に挿入して、大体の部分は2巻の最初に入れたほうがおさまりが良かったはず。まあ、そこで全部書いちゃう、やりきっちゃう所がビンゴ先生の作品の素敵なところでもあるんだけれど。
かなり好きな作品になったんで、2巻も出て欲しいなー。